10年ほど前に、戦前期 國寶・重要文化財建造物修理工事報告書集成(全43冊)を刊行した。この時、『大佛及大佛殿史』(大正4年)など垂涎の数冊も復刊することができて、望外の幸福を得ることができた。今回のシリーズは、その続編というべきもので、法隆寺の国宝・重要文化財建造物の修理工事報告書のうち、聖靈院、五重塔、五重塔附図、金堂、金堂附図、新堂の6冊を復刊する。
昭和9年から開始された法隆寺昭和大修理は、東大門から始まり、西円堂、大講堂、東院舎利殿及絵殿、伝法堂などが次々と解体修理されていった。最大の懸案であった西院の金堂と五重塔は、修理技術が熟成してから着手しようとしたため、スタートは10年ほど遅い。太平洋戦争中に開始された修理工事は戦時下にも続けられ、敗戦後も継続された(五重塔は昭和16年開始、同27年竣工。金堂の解体は同20年から、復興工事は昭和24年から開始、同29年竣工)。
その間、昭和24年冬には、金堂の炎上という痛ましい事件も起きたが、金堂と五重塔について、7世紀後半の創建から現在にいたるまでの長い年月にわたる修理の履歴が、詳細な調査によって解明されていった。その精密な調査と研究があったからこそ、創建時の姿の大概が明らかにされたのであった。
法隆寺の金堂と五重塔は、我国の最も古い建築の実態を明らかにすることができるまことに貴重な建築である。そして、日本さらに東アジアの建築の様式と技術を語ろうとするとき、その依拠すべき重要な起点なのである。
この起点を確定する詳細な成果について余すことなく記述されているのが、今回のシリーズの特徴ということができよう。