本書のもととなったのは『明治大正建築写真聚覧』である。昭和11年、建築学会が創立50周年を迎え、記念行事が開催されたとき、明治19年から昭和10年までの50年の間に建設されたものから代表的な建築の写真を集め、「50年の建築」として展覧した。多くは堀越三郎氏収集のものであり、展覧会終了後、明治・大正建築の写真250点に限定し、大熊喜邦氏が編集の中心となり、建築学会が刊行したのがそれである。
この本は、明治初期以来の代表的な建築を通覧できる唯一の書籍として、また失われた優れた建築の姿を知ることのできる書籍として、巷間に知られることになった。しかし、不幸にして再刊の機会を持たなかったので、近年では稀覯本となり入手することはほぼ不可能の状態にある。
東京大学建築史研究室には同名の写真帳が所蔵されており、内にはキャビネ判の多数の焼付けが収められている。明治・大正の部分は刊行書と同一であり、さらに昭和10年までの建築写真が含まれている。恐らく、「50年の建築」展に出陳された写真のネガから、小判の焼付けをつくり、一部の関係者に配布されたものと推定される。
現在では、昭和初期の建築も多くが失われ、その写真も貴重になってきた。それゆえ、それも収録することにし、本書の題も『明治大正昭和建築写真聚覧』と改めた。また、現存、解体、消失などの情報を補足した。
旧版の再編集・刊行を快諾された日本建築学会のご厚意に深く御礼申し上げる。
文生書院の尽力で、この貴重な写真群が新しい版として広く世に提供できることになったことを、心から喜びたい。
平成23年12月 藤井恵介 (本書序文より) |