「覆審・高等法院判例」復刻版
台湾総督府覆審・高等法院 編纂
【本冊 全12巻 (明治29-昭和18年) 】 ¥264,000(¥240,000 税別)
【補遺 2冊 全体資料(摘要・月報)明治期対象一覧付】 ¥38,500 (¥35,000 税別)
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アジア研究の原資料
元法政大学総長 中村 哲
台湾総督府の治政が始まって、まづ舊慣調査と法制化が必要となったが、その事業は明治三十年に創設される京都帝大の教授予定者、岡松参太郎、織田萬などが準備期を担当して台湾に渡ったので立派な成果をあげ得た。
総督府の法制は内地のままではなく台湾総督を頂点とする独立の法体系によっていた。実質的には日本憲法が支障なかぎり適用されたが立法、司法、行政ともに、そのまま実施されたわけではなかった。
法制関係は西欧の植民地の事例や清国領民だった原住民の屬人法が日常の法生においても尊重された。
「台法月報」は成文以後の判例等を継続して載せて、現地の官界、学界とは密接に連携したので、その執筆者をみても、中央の花井卓蔵、原嘉道、牧野英一、東川徳治等の論説があるかと思うと「民法学の新人末弘博士」という新鮮な記述があって、中央誌とは別な庶民的感覚にもあふれている。
「児島惟謙全伝」(佐藤天風・沼波瓊音)という文を採用しているのは南方の僻限の気概を思わせるに足る。もともと中国文化圏だけに「支那に於ける共産運動研究」とか「支那侮日思想の伝統」という探索根性充分の文章もみられる。末松偕一郎の「自治制に於ける婦人参政」は、明治自由民権運動のなごりのようにもみられ、「社会事業としての植民」も語られている。
台湾の土地柄は、朝鮮とは違って陸軍総督ではなく、海軍総督であり、インドネシア、仏印、フィリッピンという解放的なエースニックの気風があるために、地方自治に対する理解も早く、水越幸一「フイリッピンの憲法」がこの行政官によって紹介されている。戦時憲法教授であった私にもフイリッピン大学との交換講義を中央とは関係なく島づたいにさそいかけて来た。そのことが京城帝大との空気の差違だとわかり、船の便さえつけば異郷に渡れる関係にあって、先方からはフィリッピン大学教授が早速やってきた。戦時中、沖縄から普通教育家が南の島に渡って行ったのは、面倒な国際関係ではなかったのである。
今回、これらの資料背景を持つ「法院月報」「台法月報」より「台湾総督 府覆審・高等法院判例」を抜粋編集して、文生書院から復刻した。
顧みると「台法月報」の要は「阿片令違反」の判決と姉歯松平判官を中心とした祭祀公業の慣行法の判例研究で、これは沖縄から南方に至るまでの中国法制と華僑慣習を貫く原始共同体の墓制に集中した原資料である。
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「植民地研究の重要な役割分担!」
国際キリスト教大学教授 奥平康弘
このごろになってようやく、日本の「戦争責任」を政府も語るようになってきたが、多くの日本人は、植民地支配の実績についてはほとんどを知らないままなのである。
なによりもまず、植民地支配のファサードにあたる法令・裁判その他の制度的な部分を反映する資料が散逸していて、全貌をつかもうとしてもきわめて困難という状況があった。これは、日本の植民地支配がまことにミゼラブルな格好で終結を迫られたことに帰因することが多であろう。
事情は台湾の裁判資料についても同じである。完結した形ではどこにも残されておらず、個人的なつながりを通じて、ある時期、あるところになんとなく、断片をとどめているというふうにしか、残されていないのが現状である。
言うまでもなく、学問研究の対象となるべき歴史資料は、当該事項にかんして、欠けるところがない姿で整っていることが肝心である。そうでなければ、研究にはーときに致命的なー留保をつけなければならなくなる。
今度復刻された「台湾総督府覆審・高等法院上告部判例」は、小森恵氏の編纂にかかるものである。私の知る小森恵さんは類まれにみる才能と執念を持った資料調査マンであって、その存在はいまやますます貴重になっている。小森恵氏は、長いあいだかかって本資料集の作成に当たってきた。「針の目」のようなところを辿ることもしながら、そしてレベルの少しちがう判決集録をつなぎあわせたりしながら、明治二十九年五月「台湾総督府法院条例」による創設期からはじまって、昭和十八年までの、現実に下された「法院判例」のほぼ全貌を洩れなくつきとめたのである。カバーした時代に、総督府の法院構成そのものが変わるとか、その他、首尾一貫した形での判決発表方式がとられないことがあったらしく、現実の裁判の流れ自体を辿ることが容易ではなかっただろうと思う。
こうして完結した「台湾総督府覆審・高等法院判例」は、日本における植民地の法および裁判を研究するための不可欠の資料であるのは言をまたない。けれどもこれは、単に法制史、法律学にとっての重要文献であるばかりでなかろう。最近のように、地域研究、歴史研究が日毎に学際的な観点・方法でおこなわれるようになっている学問状況にあっては、本「判例」集成は、社会・人文諸分野にまたがったところで利用されるべき多角的な意味をもつことになるにちがいない。
どちらにしても、これはようやく緒につこうとしている植民地研究での重要な役割分担することになるのは、明らかである。 (1994.10.28 Oxford, U.K.)
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「補遺まえがき」より
平成九年十一月 編集構成 小森恵
さきに、臺灣植民地時代の判例を簡便に眺めることは出来ないかと言う要望で始まり、各種の発表形態での記録を、当時入手可能の限りの資料を蒐集し、総督府当初からの判例を年次別に整序し、一応便宜的通覧を可能とし、臺灣總督府「覆審・高等法院判例」全十二冊の判例集成の作業を終えた。
しかし、その後、異なる作業の点検中に、今まで予想もしていなかった「台湾慣習記事」なる雑誌を手にし、過去に眺めたことのあるデッサンの発見を端緒に再び「判例」と巡り合い、再度判例内容について既存の判例蒐集情報との照合点検が始まり、既に「要旨・摘録」として、採録している判例と訴訟番号・判決年月日等の符合を確認、「覆審法院判例」の百件余を超える未収録判例も発見確認した。この出来事は、資料屋の資料探索の血を鼓舞することとなった。
それは、ここに至るまでに、もう一つ確認出来なかった(第一次創刊)「臺法月報」明治三十八年六月から明治三十九年十一月発行の十七冊の雑誌の詳細である。これまでの学術情報調査では雑誌名の指摘は出来たが、それ以上の内容確認の方便は全くなかったようで、先の「臺灣慣習記事」復刻版の発行所を振出しに、調査探索をごく自然の流れの中ではじめていた。それは、右に、左にと資料反応を追いかけ、迂回しながら遂に、資料所蔵館に到達したのである。
「中華民国国立中央図書館臺灣分館」同図書館関係者には、色々と無理な願に耳を傾けて頂き、各種の事情を乗り越え、資料の入手公開について特別の御配慮も頂き、今まで「まぼろしの資料」としての存在記録はあっても直接手にして点検することは、過去の歴史の中では実現出来なかったことを、複写資料の入手により新たに三百余件の関係判例を確認することが出来た。そのうえこれらを先の出版物の「補遺」として、出版することについても同所蔵図書館からの快い同意を頂くことが出来た(中華民国国立中央図書館臺灣分館 [(85)図閲字第○二○九三号])。
ここに研究対象資料としての(補遺)出版の経過を紹介し、同図書館の御厚意と御協力によって実現出来たことを図人として特に銘記したい。
「覆審・高等法院判例」本冊・補遺の構成
【本冊】
全12巻 明治29年~昭和18年 7,979頁
1卷 |
(0)覆審法院判例全集 [自明治二九年 至大正二年] 本文290頁 大正三年一一月発行 |
[728頁] |
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[註] 0を1で増補カバーするためこの復刻には採録しなかった。 |
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(1)覆審法院判例全集 [自明治二九年 至大正八年」重要判決例要日 四六判 20+392頁 大正九年五月発行 |
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(2)高等法院上告部判例要旨全集 [大正八年自八月 至一二月 2+28+22=52頁] |
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(3)高等法院判例全集 (大正九年) 重要判決例要旨 四六判 12+247+5頁 |
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2卷 |
(1)高等法院判例全集[大正一〇年中」重要判決例要旨 四六判 16+210頁 大正一一年六月発行 |
[478頁] |
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(2)高等法院判例全集[大正一一年中] (裁判要旨摘録) 四六判 22+230頁 大正一二年三月発行 |
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3卷 |
(1)高等法院判例全集[大正一二·一三年] (裁判要旨摘録) 四六判 36+466頁 大正一四年一〇月発行 |
[502頁] |
4卷 |
(1)高等法院判例集[自大正一四年 至昭和二年] 四六判 26+338頁 昭和三年一二月発行 |
[811頁] |
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(2)高等法院判例集[自昭和三年 至昭和四年] 四六判 24+423頁 昭和五年八月発行 |
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5卷 |
(1)高等法院判例集[自昭和五年 至昭和六年] 四六判 28+681頁 昭和七年九月発行 |
[709頁] |
6卷 |
(1)台湾総督府高等法院上告部判例集[昭和七·八·九年」菊判 14+614頁 昭和一〇年三月発行 |
[628頁] |
7卷 |
(1)台湾総督府高等法院上告部判例集[昭和一〇·一一·一二年] 菊判 18+659頁 昭和一四年八月発行 |
[677頁] |
8巻 |
覆審法院判例集成 |
[584頁] |
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(1)「法院月報」自第一卷 至第六卷 (明治四〇-四五年) 抜粋 菊版 558頁 |
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9卷 |
覆審·高等法院判例集成 |
[591頁] |
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(1)「台法月報」自第七卷 至第一五卷 (大正二-一〇年) 抜粋 菊版 580頁 |
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10巻 |
高等法院上告部判例集成 |
[696頁] |
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(1)「台法月報」自第一六卷 至第二五卷 (大正一一―昭和六年) 抜粋 菊版 690頁 |
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11巻 |
高等法院上告部判例集成 |
[872頁] |
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(1)「台法月報」自第二六卷 至第三一卷 (昭和七-一二年) 抜粋 菊版 864頁 |
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12巻 |
高等法院上告部判例集成 |
[693頁] |
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(1)「台法月報」自第三二卷 至第三七卷 (昭和一三-一八年) 抜粋 菊版 593頁 |
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(2) <全体資料 [摘要·月報] 対象構成> 展望一覧 (小森恵編) 92頁 |
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[註] 摘要版資料と雑誌月報の判例資料を対比して <展望一覧> を収録した。 |
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【補遺】
全2巻 バクラム上製本 2冊
1巻 (436+24頁) / 2巻 (550+34頁)
全体資料【摘要・月報】対象一覧(明治期)付
【関連資料 ご案内】
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