ウィリアム・カクストン(1422頃-1492)から現代までの,イギリスにおける出版と書籍商の歴史に関する1,091点に及ぶコレクションです。イギリスの一流古書籍商として著名なChris Kohler氏が個人の研究資料として収集したものです。
1476年にウエストミンスターで誕生したカクストンによる印刷業が,現代のイギリス出版業界の始祖となりました。十代にわたる退屈な王朝の歴史は,書籍商の歴史にとって代えられたと,トーマス・カーライルは記しています。( Item 808 )
当 時,出版業者は著者から受け取った原稿を印刷し,書籍の体裁に施し,その販売まで行っておりました。カクストンはイギリス最初の出版社( Item 171-197 )でしたが,初期の出版業界全体は1403年設立のStationersâ Company( Item 953-969 )により管理されていました。15世紀の終りから18世紀までは,出版業の役割は多面的なものでした。
登録制度の下で,出版物の合法性と著作権を保証されていた出版業は,同時にその権益と資本をも保護されていました。1709年に最初の現代的な著作権法が議会を通過し,漸進的に内容は著者の保護を目的としたものになっていきます。
また初期の印刷業はロンドンでのみ行われ,Stationersâ Companyが独占的な権力を有していましたが,17世紀の終りには地方出版社やギルドに所属していないメンバーが出現し,独占の力は徐々に失われていきました。
ロンドンに集中していた印刷業のなかでの特例といえば, オックスフォードとケンブリッジです。1586年にオックスフォード大学はStar Chamber(非公開裁判所)により,印刷・発行を認められました。( Item 704-722 )ケンブリッジ大学は1584年から出版・印刷業を始め,出版業を始めた大学としては世界最古です。( Item 139-160 )
18世紀の終りには,印刷業と書籍商との役割が分担されるようになりました。それに伴い,1725年に設立されたロングマン( Item 121,551-555 ),1843年に設立されたマクミラン( Item 571-580 )などを含む著名で有力な出版社が19世紀の初期までに数多く誕生しています。ロンドン以外ではエジンバラのA.&C.ブラック( Item 78-79 )が1807年に,1804年にブラックウッド( Item 86-89 ),1795年にコンステーブル( Item 260-261 ),1768年にマレイ( Item 643-652 )がそれぞれ設立されています。
19世紀に識字率が向上するのに合わせ,出版社,書籍商の数も増加します。この業界での20世紀最大の出来事は, 1935年のペンギンブックスによるペーパーバックスの発明です。一般大衆にも愛好されるようになったペーパーバックスは19点収録されています。
( Item 730-748 )
19世紀から20世紀にかけて出版業よりも書店業を優先するようになった書籍商が現れます。オックスフォードのブラックウェル( Item 82-85 )ケンブリッジのHefferâs( Item 443 ),ロンドンのフォイルズ( Item 370-372 ),Hatchards( Item 433-434 ),ディロンズ( Item 302 ),ナショナル・チェーンのW.H.スミス( Item 909-913 )などです。
ま た,古書籍商に関するものとしては,クオーリッチ( Item 789-790 ),マッグス( Item 340, 581-584 ),もとはニューキャッスル出身のロビンソン・ブラザーズ( Item 810-811 ),小説で有名なマークス( Item 593-595 ),Ben Weinreb( Item 1058 ),Bertram Rota( Item 822-827 ),ハートフォードシャーのWheldon & Wesley( Item 1061-1065 )などのものがコレクションに収録されています。また1886年版のArthur Gylesによる古書籍商一覧The Directory of Second-hand Booksellers( Item 212 )をはじめとする業者名簿やオークションカタログも多数収録されています。
関連する内容の基本図書は,殆どすべてコレクションに収録されています。パンフレットなどの類は,注釈付でそれぞれ箱に収められています。コレクションの およそ半分のアイテムは260社以上の出版業社についての研究書ですが,そのほかの内容もバランスよくコレクションに含まれています。
このコレクションは,過去500年にわたるイギリスにおける出版業,書籍商に関する研究のすばらしい基礎資料となります。書物の歴史は今学界のなかでも注 目を浴びている分野です。20世紀の間,全出版部数の訳40%を輸出していたイギリス出版業界の貿易の推移など,別分野での活用も期待できるコレクション です。イギリス出版業のコレクションとしては最大かつ最良のコレクションであると自負しております。