国立台湾大学図書館の所蔵資料は、台北帝国大学附属図書館旧蔵の書籍資料を引き継ぎ、その中には多くの貴重な書籍や史料が含まれている。一九四五年、台湾大学に移管された後も、本館はさらに書籍資料の継続的な収集及び購入を行ない、本館の所蔵資料は、質量ともに台湾における大学図書館の中で傑出したものとなっている。また現在、それらは本学における教育研究の格好の後ろ盾となっている。近年台大図書館は、所蔵資料の運用において教育と研究を支援する以外に、さらに国際的な合同出版事業を展開しているが、その成果が教育や研究のみならず、文献の保存利用を推進する上でも大きな意義を有することを期待している。この度、出版される『国立台湾大学図書館典蔵琉球関係史料集成」は、『長澤伴雄歌文集結石の落葉』『国立台湾大学図書館典蔵日文善本解題図録』『国立台湾大学図書館典蔵日本書紀影印・校勘本一円威本』に続くもので、日本の研究者との協働の事業成果の一つである。
文献文物の収集は長期的な時間の累積が必要であり、有効且つ科学的な整理方法でもって、後生の人々に歴史を回顧し、且つそうした資料を利用する機会を与えるといった一切の努力が、不断に続く歴史文化の継承に繋がることはいうまでもない。戦禍の及ぶ時代において、祖先の残した歴史文献・文物を保護するには、危険に面する中で、より一層心血を注がなければならない。さもなければ、そうした人類の歴史と智恵の文化の結晶ともいえる資料の喪失を免れることはできない。
台湾大学所蔵の琉球史料は、そうした戦禍に見舞われながらも幸運にも残された数少ない貴重な筆写史料である。これらの史料は、台北帝国大学に勤務した小葉田淳先生の稀少史料の写本作成という卓見及び計画、そして台北帝大の筆写計画への支援、沖縄側所蔵機関の史料原本を貸し出すといった好意、さらに国立台湾大学の厳格な管理規則による保管といった、いくつかの機運にも恵まれ、ほぼ完全な形で残されている。
しかし、台大図書館における琉球史料は、 Moment”時期その存在が忘れられ、長くひっそりと図書館の隅に眠っていた。移管以後、図書館は多くの任務を負わされた。移管初期の重点は所蔵資料の確認と整理・装丁にあり、図書館のデジタル化が推進されるようになると、膨大なカード化された蔵書目録のシステム入力、さらに一九九〇年代後半には台大図書館の新館の落成により、分散管理されていた図書分館や図書室の図書資料の搬入が始まり、新館への搬入以降、異なった分類法による登録番号を一律にして検索の利便性を高めるなど、図書館は新たな一連の責務を果たしてきた。しかし、琉球史料については内容が難解で、史料そのものも帝大から移管された図書館目録に登録されたその他の図書とは異なり、目立った体裁や様式もなく別途保管されていたことから、図書館職員はその史料の来歴や貴重性について知る由もなく、また職員にはそれを探求する余裕もなかった。これらの史料については、幸い 一九八五年に本学歴史学系博士課程在学中の赤嶺守氏によって、その存在が確認された。現在、情報科学の発達による複製技術の向上により、台大図書館の国際合同出版も順調にその企画がなされ、グローバルな合同出版事業が展開されている。
琉球史料を含む各種の貴重資料については、いうまでもなく台大図書館には、その貴重性を生かし管理する責任が課されている。関連する出版活動は史料の永久保存に稗益するのみならず、学者・研究者及び若い学生らが理解し利用できるようにするため、国際的な合作出版においては、本館職員と合作者が共に計画を推進し、目標を達成し得るような事業展開がなされることを願っている。主編の琉球大学の高良倉吉教授、赤嶺守教授、曲豆見山和行教授の御理解を得て、これらの史料は卓越した学者や研究スタッフと共に、翻刻そして現代日本語訳・注釈・解題等を付ける作業が進められ、馴染みの薄い難解な史料が実に分かりやすく編集されている。こうした編集作業には最高の学術水準が加味されているものと信じている。色々と繁雑な作業が多かったことはいうまでもない。ここに琉球大学の各主編及び実際に翻刻・現代日本語訳・注釈といった編集作業に協力していただいた西里喜行氏・赤嶺守氏・豊見山和行氏・麻生伸一氏.山田浩正氏・前田舟子氏及び沖縄県教育庁文化振興課史料編集班の漢那敬子氏等に心から謝意を表したい。この他に、解題等の翻訳を行い本巻の編集の責任を担った本館特蔵組の洪淑芽氏、出版行政に携わった劉京攻組長にも国際的な合作事業に尽力してもらい、感謝の念を捧げたい。国立台湾大
学図書館館長
陳雪華 |