Evans Digital Collection 大西先生 × 増井先生

Evans Digital Collection 大西先生 × 増井先生

 
共同購入コンソーシアム「Evans:初期アメリカ刊行物史料集成 エヴァンス」ご案内
対談者紹介 Evans Digital Collection に寄せられた声 Evans × David D. Hall(ハーヴァード大学神学部名誉教授)

 

 
 
 
 

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■ 「Evans」の母体 AASについて


大西直樹(おおにし・なおき)
国際基督教大学 特任教授
アメリカ文学・アメリカ学

大西 「Evans」の基盤となる「American Antiquarian Society(AAS)」との出会いはいつごろでしたか。

増井 わたしが修士の勉強をしたマサチューセッツ大学アマースト校の英文科には、ピューリタン関係の研究者がおふたりいらして、そのおひとりメイソン・ローワンス先生のEarly American Literatureのセミナーで初めて、ウースター市のAASを訪ねたんですね。アメリカの印刷物に関して、これほど素晴らしい環境があるのかと感激したんですが、ウースターというところは交通の便が悪くて。

大西 ぼくも2回ほど行きましたけど、ボストンから1時間ぐらいかかったかな。

増井 車ですとそのぐらいかかりますね。AASを利用するには、まず会員になる必要がありますが、会員であっても何かと手続きに時間がかかるので、結局何日か泊まりがけになりますよね。

大西 あそこは国立の研究所ですから宿泊施設もあるし、いろいろなレクチャーシリーズやプロジェクトもありますし、日帰りは考えませんでしたね。かてて加えて、一次資料はプラスティックのカバー越しにしか閲覧できないうえ、持参のペンもコピー機も使えない。何をするにも時間がかかりますから。AASの全資料がマイクロフィッシュ化されたものが、アメリカの各大学にも導入されてからは、だいぶ楽になりましたけど。

増井 それでも、夏休みに渡米してマイクロフィッシュをコピーしてくるというのは、時間もお金もかかる作業だったわけです。それが今や「Evans」によって、全資料をインターネットで検索、閲覧できるようになりました。残念ながら上智ではまだ導入しておりませんので、ICUのシステムをお借りしている状況ですが、「Evans」が使えるようになったことは、われわれにとってどれほど画期的なことか。

■ 初期アメリカ研究の現状


増井志津代(ますい・しつよ)
上智大学 教授
初期アメリカ文学・思想・宗教史

大西 じつは「Evans」のマイクロフィッシュは、東大と同志社にも入っているんですが、今となっては使いづらさを否めませんね。研究者が論文を書くのには使えるでしょうけど、学生ではまず使いこなせないでしょう。その使い方の基本となるべき「アメリカ史」を学位論文レベルで教える講座がないわけですよ。20年ほど前に全国調査をしたときには、旧帝國大学の西洋史に、アメリカ史の講座がないことがわかりました。

増井 私大も似たようなものです。

大西 私大も旧帝大モデルのところが多いですから、上智、南山といったいくつかにしかアメリカ史の講座がありません。アメリカ学会の会長を務められた東大の斎藤眞先生のご専門が外交史だったように、国際関係とか政治をやっている方が、ついでに教えているような感じで、アメリカ史専門の教員を抱えている大学は本当にかぎられていますね。

増井 上智の場合は、英語学科に3名、アメリカ史の先生がいます。この状況下で教員が増えたというのはめずらしいことかもしれませんが、元来、英文学科にはアメリカ研究の流れがありますので。

大西 たしかにそうですね。とくに17世紀初めごろの、歴史と文学、政治と宗教が混在しているピューリタンの文化というのは、建国を語るうえで大事です。ぼくもICUでの立ち位置はアメリカ文学なんですが、一般教養科目のほうでは初期アメリカ研究をあつかっています。

増井 「Evans」でのリサーチを、宿題として課していらっしゃるんですよね。

大西 料理、音楽、裁判、事件どういうテーマの資料でもいいから、「Evans」から資料を取り出して、2、3ページ説明せよというものです。シェークスピア時代のアルファベットのスペリングは、「ロングS」だったり、「U」と「V」が逆だったりと不規則性がありますから、そこだけちょっと教えておけばすぐに見当がつくようになりますよ。学生たちにとってはそれだけでも面白い経験みたいですね。1840年代初頭に、ウェブスターの英語辞典ができるまではスペリングが統一されてないんだということですとか。


ホイットフィールドの死を悼む詩

Author: Wheatley, Phillis, 1753-1784.
Publication Information:
[Boston : Printed by Isaiah Thomas, 1770]
Physical Description:
1 sheet ([1] p.) ill. (relief cut) 35 x 25 cm.
Document Number 42198

増井 アメリカ英語の変遷といった語学研究をされる方たちにも「Evans」は有用ですね。あるいは、挿し絵などの画像資料も楽しめると思います。たとえば、わたしが最近関心をもっているのは、フィリス・ウィートレイ(Phillis Wheatley アフリカ系女性詩人 1753-1784)の、ジョージ・ホイットフィールド(George Whitefield 英国国教会の牧師 1714-1770)の死を悼む詩、エレジー。何版も出ているんですが、さまざまな挿し絵がついているんですよ。それがすべて簡単にダウンロードできてしまう素晴らしさといったら。
 宿題のテーマで面白いと感じられたものはありますか。

大西 現象として面白いことに、シンデレラがありますね。毎年必ず出てくるテーマで、どうして初期アメリカでフランスのシンデレラなのかと思いますが、おそらくページ数が少ないから、ですね(笑)。まあ、何百ページのものを読みこむことは、技術も時間も必要ですから、まずはプロセスだけ味わってもらえればいい。リベラル・アーツとして、一次資料を使う興奮とか醍醐味、古いものに対する感覚の養成といった経験を得ることは、きっとその後の人生を味のあるものに変えてくれますよ。その点においてだけでも、「Evans」は重要な役割を担っていると思います。

■ アメリカ史研究によってもたらされるもの

大西 今のところ、高校の世界史教科書に掲載されているアメリカ史は、わずか4パーセント。つまりセンター試験にも4パーセントしか出てこない。だから予備校の先生たちも、アメリカ史なんてやらなくていいということで、高校生レベルのアメリカの知識は、最近のことを除いてほぼゼロといっていい。年代はまったく覚えていないし、南北戦争が「The Civil War」であることすら知らないわけです。外国枠が増えた昨今、多種多様な新入生にどうアメリカ史を面白がらせることができるか、いろいろと工夫はしているんですが。

増井 アメリカに対する研究が、ますます重要になりつつある現代において、4パーセントはさびしすぎますね。ですが、学生たちがアメリカに無関心かといえば、そうでもないようなんです。大学で導入している「Savin」(南北アメリカの出版物を収録したデータベース)へのアクセス数はかなりの数ですし、講義後、学生にコメントを書かせますと「面白い」という回答が多いです。

大西 どういった関心の持ちかたを?


シンデレラ

Author: Perrault, Charles, 1628-1703.
Publication Information:
Philadelphia: Printed for Mathew Carey, no.
118, Market-Street., 1800.
Physical Description:
32 p. ill. 11 cm.
Document Number 37184

増井 上智ではアメリカ文学史を4つに分けて教えていまして、わたしは最初の17世紀から19世紀に入るころ、ちょうど「Evans」がカヴァーする部分の担当なんですが、いろいろなもののルーツをたどると植民地時代にゆきあたるというところに興味をもつようですね。たとえばピューリタン説教のプレイン・スタイル(平明体=装飾を抑え、わかりやすさを重視した文体)をさかのぼれば、そこにイギリスのバロックスタイルとは対照的な、アメリカ英語のルーツがあることに気づいて喜んでくれたりですとか。

大西 「Evans」のプリンティングカルチャーを眺めていくと、アメリカにおける論文の書きかたが、説教の構想法から生まれてきたということもよくわかりますね。

増井 そもそも、現代英語の主流がアメリカ英語になっていることを考えれば、初期アメリカを理解せずしては何もわからないわけですよね。本質的なところ、最初の部分を無視してしまうと、目の前にある現象しか見えなくなってしまう。現代日本のジャーナリズムも、アメリカに関しては歴史的本質を見ようとしていませんし。比較的関心が多いところといえば、1920年以降からでしょうか。

大西 そうですね。アメリカが世界のトップに躍り出た第一次世界大戦、あるいは第二次世界大戦以降を面白がる人はたくさんいる。ところが重要であるはずの初期アメリカの研究者たちは残念ながらみな孤立していまして、初期アメリカ学会を作った理由もそこにあるんですよ。
 森本あんりさんの『反知性主義』(新潮新書、2015年)は、トランプの登場とぴったり符合していますが、森本さんによると、ハーバードやイエール大学出身の学者に対する嫌悪感というものは、18世紀アメリカの信仰覚醒運動の終わりごろから続く根深いものだという。つまり、初期アメリカの宗教性が理解できないと、トランプが、福音派の人たちの熱狂的支持を得ているかもわからないわけですね。

増井 ヨーロッパのキリスト教がアメリカで再生されて、またヨーロッパに戻っていくという現実もありますね。それはイギリスでは語りたがらないところで、やはりピューリタンをたどらないとわからないことです。

大西 アメリカ人がよく口にする「Born Again」ですね。じつはアメリカ初期のピューリタンは、ピューリタン革命以前にやってきていて。

増井 1620年から1630年ぐらいですね。

大西 そこでピューリタン革命が起こり、失敗して、基盤は王党派の手に戻るわけですが、アメリカに残ったピューリタンたちは逆に熱狂して、大覚醒運動が起こるという。増井先生もよくおっしゃるけれども、そういうイギリス帝国の植民地に発生している事象には、環大西洋の帝国史という視座が必要です。そのあたりは名古屋大学の方々の専門になりますか。

増井 アメリカ史学会でいえば、船員と船というテーマをお持ちの笠井俊和さんは、アメリカとイギリスの歴史を海を通してつなぐ、といった研究をされています。鰐淵秀一さんは大西洋を渡るアメリカへの移住に注目し、イギリス以外にもオランダ、スカンジナビアといったヨーロッパ諸国のルーツをたどる。そういう新しい研究も出始めていますね。

■ これからの研究視点

増井 大西洋ということでいえば、もうひとつが奴隷貿易。そこもイギリス人があまり見たがらないところですけど、わたしたち日本人は一度リタッチしたところから進めていけますので。

大西 増井先生が翻訳された『環大西洋奴隷貿易歴史地図』(東洋書林、2012年)に、アメリカの奴隷が1620年ごろから入ってきていたとあって、ちょっとショックだったなあ。

増井 正確にいえば奴隷ではなく、Indentured servants(年季奉公人)としてアフリカ系の人々が、最初にアメリカに来たのが1619年ですから、プリマス(マサチューセッツのイギリス植民地)より1年早い。現在わたしたちは、西インド諸島(West Indies)も視野に入れて、歴史を書きなおす研究を進めています。


奴隷売買のポスター

Author: Wells, Robert, 1728?-1794.
Publication Information:
[Charleston, S.C. : Printed by Robert Wells,
1768]
Physical Description:
1 sheet ([1] p.) ill. (relief cuts) 20 x 17 cm.
Document Number 41896

大西 アメリカ人が嫌がるところですね。とくにイングランド領、アメリカ北部は奴隷制度に反対していたという立場だったはずなのに、実際には早々に奴隷が来ていたという足元をすくわれる研究ですから。

増井 たとえば、ジョナサン・エドワーズ(Jonathan Edwards 神学者 1703-1758)の弟子であったサミュエル・ホプキンス(Samuel Hopkins 神学者 1721-1803)。彼は硬直したカルヴァン主義者として、ユニテリアンにずいぶん批判されました。ところがじつは、非常に早い段階から奴隷貿易に反対しています。牧師を務めていたロードアイランドのニューポートが、ニューイングランドにありながら奴隷貿易の主要港でもあったからなんですね。ホプキンス牧師は、さきほど紹介しました詩人のフィリス・ウィートレイとも交流があった人なのに、ハリエット・ビーチャー・ストウ(Harriet Beacher Stowe 作家 1811-1896)の『牧師の求婚』(Minister’s Wooing)でも、ごりごりのカルヴァン主義者として描かれていますね。

大西 ストウ夫人、『Uncle Tom’s Cavin(アンクル・トムの小屋)』ね。「Evans」は、アメリカのプリントカルチャーをほぼ網羅していますから、奴隷売買のポスターなども見られますよね。いずれにせよアメリカ人の研究者にも、環大西洋といったスタンスをもっと持ってほしいと思うな。アメリカ人のアメリカ研究者は、アメリカのことしか知らない人多いから。American Studiesには歴史はいらないという人までいて、驚いちゃった。

増井 偏見がない分、わたしたちのほうが広く見渡せるかもしれません。

大西 日本でわれわれの研究を見て、自分の学問を変えてくれる研究だって感激してくれるアメリカ人研究者もいるわけですよ。ですから、われわれも力を尽くして、もっともっとアメリカ人を外に出してあげたほうがいい。「Evans」のようにですね。

増井 「Evans」によって、日本から新しい学問の方向性が打ち出せれば面白いですね。わたしたちもさまざまな機関に働きかけて、共同購入を考えているところです。

大西 共同購入したいと思っているところ、多いんじゃないですか。今後、日本の「Evans」は、ヨーロッパ関連のアーカイブスを含めた横断検索を目論んでいるそうですから期待しましょう。手紙とか日記とか、一次資料を日常的に見られるアメリカ人研究者に対抗するのは難しいでしょうけれども。

増井 17世紀の肉筆になると、ミミズが這ったような字にしか見えませんし、manuscript(手稿)レベルにいくのはとても大変だと思います。触って、匂いをかいで(笑)。

大西 逆にアメリカの日本研究者で、しっかり漢文が読める人もいますので、若い世代の方に頑張ってもらわないといけない。

増井 第一次資料でしか確認できない真実もありますからね。たとえば、わたしの経験でいいますと、ニュースレター誌の『Christian history』。トーマス・プリンス(Thomas Prince 1687-1758)というボストン第三教会の牧師が出していたもので、第一次覚醒運動(1730年代-1740年代)のときの、アメリカとイギリスの実情が克明に記されているんですが、第三教会に熱狂を持って迎えられるジョージ・ホイットフィールドの様子が書かれていたんです。

大西 ホイットフィールドは、イギリスの宣教師なんですよね。大西洋を6度渡って、7度目の渡米で亡くなっている。

増井 じつは20世紀に入ってから、かのペリー・ミラー(Perry Miller 歴史学者 1905-1963)が、ホイットフィールドはボストンでは嫌われていたと書いていて、それを鵜呑みにしていたんですが、じつのところは真逆だったことがわかりました。加えていえば、第三教会はベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin 政治家・気象学者 1706-1790)も所属した中心的な教会で、ホイットフィールドのエレジーをつづったウィートレイも第三教会所属だったという。

大西 なるほど、いもづる式で面白いねえ。ホイットフィールドは、行くところ行くところ、熱狂的に迎えられていますが、ボストンも例外ではなかったと。彼の説教は即興で、書き下ろしていないので文献が少ないんですよね。

増井 ジャーナルが少々と、フランクリンが刊行したものがあります。フランクリンは売れると見越したものは出版しますから(笑)。

大西 18世紀の思想家というと、今のアメリカでは、ジョナサン・エドワーズ(Jonathan Edwards 神学者 1703-1758)か、ベンジャミン・フランクリンですよね。

増井 ふたりともイエール大学出版から全集が出ています。エドワーズとフランクリンが、アメリカにおける知の遺産のチャンピオンですね。

大西 ほとんど同時代人ですけど、アメリカ国内では、エドワーズが「聖」、フランクリンが「俗」という扱いですかね。まあ、まだまだ面白い人はたくさんいるんですけど、とくに日本では、教えることができる人が少ないから。とはいえ今アメリカ史の博士を目指している人たちはみんな優秀ですし、アメリカにはいい先生もたくさんいて、研究もいろいろと進んでいる。問題なのは、せっかくアメリカで得た知識や経験を持ち帰る場所、ポジションがないこと。ぼくも早々に退任しなくちゃいけないかな(笑)

2018年8月2日(木) 
於 東京・文京区本郷

対談者紹介


大西 直樹(おおにし・なおき)
国際基督教大学特任教授
アメリカ文学・アメリカ学

■学歴
国際基督教大学教養学部人文科学科
国際基督教大学教育研究科
アーマスト・カレッジ英文科
国際基督教大学比較文化研究科

■主要著書・訳書・監修書
『エミリ・ディキンスン アメジストの記憶』(彩流社、2017年)
『私の好きなエミリ・ディキンスンの詩』(共著、金星堂、2016年)
『デイヴィッド・ホール著『改革をめざすピューリタンたち』』(彩流社、2012年)
『エミリ・ディキンスンの詩の世界』(共著、国文社、 2011年)
『ニューイングランドの宗教と社会』(彩流社、1997年、2004年)

増井 志津代(ますい・しつよ)
上智大学 教授
初期アメリカ文学・思想・宗教史

■学歴
同志社大学 文学部英文学科
ホイートン大学 大学院神学部教会史専攻(MA)
マサチューセッツ州立大学 アマースト校大学院英文学専攻(MA)
ボストン大学 大学院アメリカ・ニューイングランド研究課程(PhD)

■主要著書・訳書・監修書
『環大西洋奴隷貿易歴史地図』(翻訳、東洋書林、2012年)
『キリスト教のアメリカ的展開継承と変容』(共著、上智大学出版、2011年)
『植民地時代アメリカの宗教思想ピューリタニズムと大西洋世界』(上智大学出版、2006年)
『史料で読むアメリカ文化史1、植民地時代:15世紀末-1770年代』(共著、東京大学出版会、2005年)


Evans Digital Collection に寄せられた声


遠藤泰生(東京大学)
① 英語以外の出版物も含まれること。もともとポリグロットな世界であった北米植民地初期の状況を誠実に反映する史料集になっている。その点、英国出版物集成とは必ずしも重ならない史料集と言える。
② Evansには含まれない新聞電子データ(Early American Newspapersなど)とあわせれば、ほぼ北米植民地の全出版物をカヴァーできることになる。
③ 電子データであるので、言葉単位の史料検索が可能となり、基礎研究の分野横断的な視点を醸成するのに不可欠な史料集である。例えば政治・経済・文学・宗教などを貫く思潮を以前より探りやすくなる。このことで、アメリカ研究とヨーロッパ研究の架橋を目指すような研究の芽をはぐくむことも可能となる。これは日本における社会科学・人文科学全体の底上げに繋がる。
④ 史料集を使うことが予想される学生、研究者には、狭義のアメリカ研究者に限らず、近世・近代イギリス史研究者、植民地で出版されたスペイン語、フランス語、ドイツ語などをリサーチ言語として使用する近世・近代ヨーロッパ研究者全般が含まれる。

大塚寿郎(上智大学)
米国の大学で調査を行うときに感じる、日本の大学との大きな差のひとつが、デジタル・アーカイブへのアクセスのよさである。この点は日本の大学の国際化にとって立ち後れている点と言わざるをえない。一大学で導入が難しいデータベースを、コンソーシアムの形で導入することによって多くの研究者が恩恵を被ることは言うまでもない。
領域的にも地理的にも横断や越境、あるいは研究の枠組みそのものの再考を前提とするグローバルな研究は、研究者が制約を受けない環境を整備することが必要となる。初期アメリカの研究の場合も、Evansのデータベースはこの意味で利用価値が高い。研究者が日本にいながらにして、米国の研究者と同様に地理的に離れた複数の物理的アーカイブに所蔵されている領域横断的な資料にアクセスできるメリットは計り知れない。また、網羅されている史料・資料のジャンルは、文学や歴史を超えた学問的領域の横断、テクスト資料と視覚資料という違った研究対象へのアプローチの横断、使用されている言語の横断を可能にしてくれる。たとえば、これまでであれば多くの時間と労力を費やしても不可能なことさえあった、広告、ブロードサイド、カタログ、地図などを複数一挙に比較分析することさえ可能である。それを充実した検索機能を通して行うことができる研究者にとってのメリットはもとより、将来日本の研究界を担う大学院生たち、また学部学生たちが優れたデジタル・アーカイブを利用した研究方法を学ぶことで、新しい研究の可能性を発掘する手段を手に入れることになるであろう。将来への学問的投資としても大きな意味をもつものである。

佐久間みかよ(学習院女子大学)
デジタル・アーカイブ資料の充実は日本の研究機関において急務であると考えます。出張調査などの時間的制約が増している昨今、同様の資料を常時図書館などで検索することが可能になることで研究の精度があがることは間違いありません。今回のEvans Collectionは、アメリカで出版された初期の書物だけでなく、一般に流通したパンフレットなど広範囲の資料を含んでおり、アメリカ研究に携わる者のみならず、歴史・文学など人文系の研究者がアメリカに関わる資料で一度は必要を感じる資料が収録されています。それらが充実した検索機能により、より速く、そして多様なものを入手できるようになっています。資料と検索機能は研究の両輪ともいえますが、信頼できる資料を充実した検索機能により入手できることも今回のEvans Collectionの特徴だと思います。研究者、院生のみならず、学部学生にも、Evansの検索によって出会った資料から、新たな歴史認識を得られる機会を与えることができると考えます。
またデジタル化された資料の活用により、ビジュアルに過去の歴史や文化と出会う機会を与えることも考えられ、これらの研究成果の公表を通じて、広く国民にアメリカそして歴史そのものへの興味をおこす契機をつくりだし、その研究の意義を訴える有効な活用へとつながると考えます。