増補 「私の過去帖」 印刷

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増補 「私の過去帖」

付 絵画・銅版画・装幀作品 未発表原稿「マヴォのこと」
戸田達雄 著
戸田桂太 編
          ISBN978-4-89253-607-6
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         定価(本体4500円+税)上製
         432ページ(カラー16ページ)

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マヴォイストの述懐 ー 尖端芸術から広告デザインへ
五十殿利治 (筑波大学教授)
第一次世界大戦中にチューリヒに起こった「ダダ」は今年でちょうど百周年を迎えた。これに呼応するような動向として大正期新興美術運動がある。とくに「マヴォ」はその中核であり、村山知義、柳瀬正夢、高見沢路直(田河水泡)といった美術家のほか、詩人尾形亀之助や萩原恭次郎らが加わった過激な芸術運動であった。著者戸田達雄氏は小林ライオン歯磨(現ライオン株式会社)に入社、広告部に配属されてデザインの仕事に携わることになる一方、丸ビルのショールームに関係したことから、「マヴォ」周辺の芸術家と知り合い、運動の一翼を担うことになった。その後は芸術活動を続けるなかで、片柳忠男とともに広告宣伝のオリオン社を立ち上げ、戦後まで続く息の長い会社に育てあげた。
 本書はその戸田氏が肉親から始まり幼少時から関係の深い人物をひとりひとり軽妙な筆致で記した貴重な回想録であり、今回は自作銅版画等の図版、長文の「マヴォのこと」が増補され、さらに充実した内容となった。じつは「マヴォ」関係者の回想は、村山知義による四巻本「演劇的自叙伝」は別格として、驚くほど限られている。検証可能な歴史として「マヴォ」を位置づけるには、村山を引用するだけでは能事終われりとはならないし、その他の回想も概ね短文で、書き手以外の人物がよくみえないもどかしさを感じさせる。その点、本書は筆者と各人物との交流が主眼であり、筆者の人柄もあるのか、相手に寄り添い、よくその人となりや人間関係がうかがわせる。とりわけ尾形亀之助との交流についての記述は興味深い。また今回増補された「マヴォのこと」では「マヴォの歌」としてよく知られる「サイヤンカネ」の他にも、よく歌われた曲があったなど見逃せない証言が含まれている。本書は大正・昭和戦前期の美術史・デザイン史に関心のある読者のみならず、萩原朔太郎や大手拓次まで登場するので文学史に興味のある読者にも勧められる一冊である。

 

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シマフクロウ(昭和44年)画題「星ぞら」第19回一線美術会展(エッチング、アクァチント、ドライポイント併用) カイツブリ(昭和56年)画題「水の底」(エッチング、アクァチント、ドライポイント併用) 『日本の鳥』戸田達雄著、文壽堂出版部、昭和22年 『淡水の魚』戸田達雄著、文壽堂出版部、昭和22年 「浮標とウミネコ」(昭和41年)油彩・10号キャンパス

 

おわりに ─ 増補版のあとがき
戸田桂太

『私の過去帖』は昭和四十七年、著者戸田達雄が六十九歳のときに、それまでの半生を振り返って書いた回想録である。幼少期からライオン歯磨広告部時代、大正期の新興美術運動「マヴォ」の時代、「オリオン社」で広告宣伝の仕事を続けた昭和時代を通じて、交友のあった人物のうち、その時点で既に亡くなっていた人びととの関わりが記述されている。初版のあとがきに著者自身が書いている通り、親しくつき合っていた詩人の高木護氏に執筆を奨められ、古くからの知友である光文社印刷の佐々木孝氏の協力によって世に出た私家版だった。
前書きにある〈六十年余のこれまでに、肉親をはじめとして、邂逅し遭遇した人は数限りないが、その人々の誰からも、はかり知れない恵みを受け、開発され、形成されて現在の私が出来上がったものと思う〉ということばからは、多くの人びとから受けた恩恵への感謝の気持ちと謙虚な尊敬の思いが伝わってくる。同時に、穏やかな語りくちで記されたさまざまな人物との交友録は当事者自身が記述したものとして、大正末期から昭和に至る文化史や芸術運動の動向を知る上での貴重な資料でもあった。
この度、四十年以上前に出版されたこの本が復刻されることになった。亡くなって二十八年あまり、この思いがけない事態に、泉下の父・戸田達雄もさぞびっくりしていることだろう。
この機会に、マヴォ時代以降の挿絵や児童画の仕事、戦後制作した銅版画などを増補し、その一部を紹介した。図版の解説でも触れたが、それらはマヴォの抽象的な版画やオブジェ作品とはまったく傾向のちがうものであり、その細密な描写からは、野生の生きものや植物に向けられた独特の視線が感じられる。
もう一編、新たに増補した「マヴォのこと」は歿後に見つかった未発表の原稿で、四百字原稿用紙七十枚程の文章である。原稿の記述から判断して、昭和六十年には書き始めて、六十二年七月頃までは書いていたことが分かる。昭和六十三年二月に亡くなる半年前のことであり、たぶんこれが人生の最後に書いたまとまった文章であろう。
復刻にあたって、大正期新興美術研究の泰斗である筑波大学の五十殿利治教授から「マヴォイストの述懐―尖端芸術から広告デザインへ」の玉稿を戴いた。この復刻版にとって画龍点睛を得たものと思い、深く感謝する次第である。


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新刊 2016年5月 刊行済 】
『東京モノクローム 戸田達雄・マヴォの頃』
戸田桂太 著
四六判264ページ
定価 ¥2,500 (税別)
ISBN978-4-89253-602-1

書評
「タツオ」としてよみがえる

川崎賢子