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中国法制史考証

近百年中国法制史の学術成果
中国社会科学院法学研究所法制史室主任
楊一凡主編
中国法制史考証

電子版総目次


楊一凡主編『中国法制史考証』甲乙丙編簡介
寺田 浩明(京都大学教授)

『中国法制史考証』全十五巻が、六年にわたる編纂作業を経てこの度一挙に刊行された。A5判横組み、全9700頁余、一巻平均650頁。私は丙編 主編として1998年からこの企画に関わってきたが、甲乙編については今回初めてその全貌を知った。内容のすべてを未だ読んではいないが、編纂に関わった 一員として、本叢書の特徴について簡単な紹介を行うことにしたい。なお本書の詳細な電子版総目次を作成し、文生書院ホームページ上に載せておいた。本紹介 と併せて参照されたい

楊教授の「総序」によれば、本叢書は、1)法史史料に対する考証の不足に基づく過誤が無反省に伝播している、2)その反面、貴重な従前の考証成果 が学界に共有されていない、3)しかもその上、現代の考証研究の成果が出版機会を得ていない、という現状認識に基づき、近百年の内外学者による中国法制史 考証の学術成果を匯集すべく企画されたという。

甲編「歴代法制考」全七巻は、夏商周・戦国秦・両漢魏晋・隋唐・宋遼金元・明代・清代の各代に巻を分け、延べ90名弱の執筆者(定評ある専家を中 心に少壮気鋭の論者を含む)が、百十余章・三百九十余節の法制史考証上の主要論点を論じ尽くした膨大な論文集である(基本的には新稿)。甲骨文・金文の世 界から清末までについて、代表的な法典・法律文献は言うに及ばず、各代の裁判制度と刑罰制度の主要論点がほぼ網羅され、またそれ以外にも不動産売買などの 契約制度、民族法制、辺彊条約といった話題も取り上げられている。各巻毎(つまりは時代時代の史料情況毎)に取り上げられる主題は異なり、教科書や通史の 如き体裁上の一貫性はない。しかしその反面、一つ一つの考察は史料に則しまた論点を絞ってある分だけ一般に教科書的な記述より読み応えがある。大部分の論 文は、これまでの研究成果を逐一紹介批評する形ではなく、執筆者自身の最新見解を史料から直接に述べる形をとる。なお各巻末尾に置かれる(多くの場合、各 巻主編者の手になる)「法制史考証總述」「法制考証学術見解述要」「法制考証挙要」といった表題を持つ論文(および巻一の李力「先秦法制研究之批判」等の 幾つかの概観論文)が、重要論文(1990年代後期のものまで含む)一つ一つの内容を詳細に紹介しつつそれまでの研究史を総括しており、研究案内の役割を 果たす(特に巻四・巻五の尤韶華氏担当分、計三百頁弱は力作)。

乙編「法史考証重要論文選編」全四巻は、基本的にはこれまでの中国語重要論文112編を主題別に集めたアンソロジーである。1930年代(楊鴻 烈・呉晗)1940年代(陳顧遠・鄧広銘)1950年代(黄彰健・張政[火良])の六編を含むが、1980年代90年代に書かれた論文が大部分を占める (この事情は丙編・日本論文でも変わらない)。大陸学者だけではなく黄彰健・黄静嘉・戴炎輝・張偉仁・高明士・那思陸・黄源盛等の台湾学者の業績も含まれ る。なお末尾には「附録:法史考証重要論文著作目録」(楊一凡編。88頁、千六百件)を付す。具体的な収録論文名は上掲したWEB版総目次を参照された い。

ただ甲編は「歴代法制考」、乙編が「法史考証重要論文選編」とは言っても、上記「総序」が既に断るとおり、「当代中国学者の法史考証についての幾 多の成果は既に甲編に収録されているため」乙編は事実上は甲編以外の考証成果や、近代法制考、民族法制考、および逝去した学者や台湾・香港の学者の研究成 果で甲編に反映されていないものを優先的に収録してあるという。また改めて見返せば、そもそも甲編・乙編の編別自体が、必ずしも現時点における研究総括と 研究史、新稿と旧稿再録という関係に厳密に立つ訳でもない。甲編の中にも旧稿再録のケースがあり(例えば巻七の瞿同祖「清律例的継承和変化」は1980年 初出、『瞿同祖法学論著集』1998年所収)、また乙編にも今回の収録に際してリライトされたと思われる(末尾に出典を記さない)論文が8編含まれる(例 えば巻一冒頭の張建国「中国律令法体系考」全70頁は同氏『帝制時代的中国法』1999年の第一部分法源編全124頁の数章を抜き出し必要なアップデート を加えたもの、朱勇「清朝宗族法考」全83頁は同氏『清代宗族法研究』1987年、同『中国法律艱辛歴程』2002年所収を半分程に縮約したものであ る)。おそらくは甲編巻五・尤韶華「宋遼西夏金元法制考証挙要」の書き出し(宋遼西夏金元の考証論文は百十編だが、そのうち幾つかは本巻所収論文で言及 し、また幾つかは原文が乙編所収されている。そこで残りの諸論文についてここに挙要を示す)が暗示するごとく、甲乙両編全十一巻という限られた紙幅を最大 限に用いて、現時点における達成の成果が(それぞれなりに、何らかの仕方で)反映されるべく工夫した結果、こうした形におちついたのであろう。

丙編「日本学者考証中国法制史重要成果選訳」全四巻(通代先秦秦漢巻・魏晋南北朝隋唐巻・宋遼西夏元巻・明清巻。籾山明・岡野誠・川村康の各氏お よび寺田が各巻選編を担当)は、標題の示すとおり、日本学者の研究成果の翻訳論文集である。仁井田陞・牧野巽「《故唐律疏議》制作年代考」(1931年) 以来、選編段階まで(1998年以前刊行)の論文50編の中国語訳が収められている。日本人読者には無用のものだが、日本語論文の入手が困難な中国学界に とっては(また今後の日中の学術交流の前提条件を整えるという意味では日本学界にとっても)本編刊行の意味は小さくないと思う。また日本でも図書館に備え れば中国人留学生の役に立つに違いない。なお巻四末尾には、寺田編の「附録:近百年日本学者考証中国法制史論文著作目録」(214頁、三千件弱)が付され ている。戦後部分については多数の代替手段があるが、戦前分についてはおそらく唯一の中国法制史研究文献目録ということになろう。

幾つかの難点はあるものの、全体として言えば、時宜にかなった企画に対して多数の研究者が力作を寄せ有益有用な書物に仕上がったと言えると思う。今後の研究発展のため、備えておいて損はないと考える。

(2003年12月30日)

天一閣蔵明抄本《官品令》考
2006年11月28日朝日新聞朝刊掲載記事「日本の律令解明に光」で報じられた天聖令についての、その淵源と内容に関する論文も収録されています。
(戴建国「天一閣蔵明抄本《官品令》考」甲編第五巻38~62頁)
中国社会科学出版社 2003年11月刊 A5版上製本 全15巻
¥128,100(税込)
好評発売中



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